自分にしかできない、エシカルインフルエンサーに

最近よく耳にするようになった「エシカルファッション」。“倫理的”に配慮されたファッションという意味があり、生産背景の透明性や環境に優しい取り組みなど、様々な形での「エシカル」が求められています。

 

そして、最近多くの学生が「エシカル」の背景を学ぼうと、様々なアクションをしています。今回は、大学3年生時に休学し、「トビタテ!留学JAPAN奨学生9期」として1年間世界各国でエシカルファッションに関わるインターンを行ってきた久米彩花さんにインタビュー。世界の「エシカル」のリアルに迫ります!

 

 

ビジネス×エシカルを求めて

 

ー 久米さんが「エシカルファッション」に興味を持ったきっかけを教えてください!

久米さん:私が8歳のとき、テレビでゴミ山で生活する女の子を観たことがきっかけで、貧困問題に興味をもちました。高校生になって、具体的に国際協力関連の仕事をしたいと思い始め、初めてフィリピンへ。環境NGOへ訪問したり、孤児たちと交流する中で「他人事ではいられないな」と思いを強くしました。それから、地元の高校生たちと一緒にフェアトレードのコーヒーを販売したり、「フェアトレード」という形で活動を開始しました。

初めてのフィリピンで、子どもたちと。

久米さん:ビジネスで貧困問題を解決したいという気持ちから、大学では国際経営と環境開発を専攻しながら、スタディツアーの企画など課外活動もしていました。

 

「エシカルファッション」に興味を持ったのは、映画「ザ・トゥルーコスト」を観たのがきっかけです。今まで服自体に意識をしたことがなかったのですが、身近なファッションが自分が関心を持っている「労働搾取」の問題に絡んでいることを初めて知りました。そこから、自分達にもっと身近な「消費」から労働搾取や貧困問題を解決していきたい、という気持ちに。

 

ー それから、1年間休学して世界各地のファッション業界でインターンされることになったのですか?

久米さん:今まで、日本でのフェアトレードの現状を見て、デザインも正直私たち世代に刺さるものでなかったり、マーケティングも上手くいっていないのでは?と思っていました。フェアトレードやエシカルファッション界では、まだまだ「ビジネス」の面が足りていないな、と感じていたので、マーケットの規模が日本よりも大きいヨーロッパの戦略を見てみたいと思い、休学を決めました。

 

ー 具体的に、どのような点に絞ってインターン先の国や団体を決めていったのですか?

久米さん:まず、日本でのエシカルファッション市場を見たい、という思いからボーダレス・ジャパンのjoggoという会社でインターンを4か月させていただき、日本市場でのマーケティングを中心に経験しました。実際にバングラデシュの工場へ訪問することもできました。映画「ザ・トゥルーコスト」にもあった、ラナ・プラザでの事故*1 後どのような状況なのか興味があり、現地の方に聞いたところ、少しずつ労働条件が改善されているものの、労働環境の改善のために最低賃金の引き上げが求められ続ける一方で、服の原価は変わらず厳しい状況だな、と感じました。

バングラデシュの工場では、現地で働く人たちとの交流も。

 

アクションにつながる、エシカルな選択肢

 

ー 日本でのインターン後、どのような計画を立てましたか?

久米さん:まずは、イギリス・ロンドンで Oxfam Shopという、国際NGO団体のOxfam が運営するショップで4か月間店舗での販売と戦略を担当しました。イギリスでは、フェアトレード発祥の地でもあるので、住んでいる人たちの意識に驚かされました。「古くても質が良いものに価値がある」と考える人が多く、古着屋も多いです。Oxfam Shopでも、ヨーロッパのフェアトレード商品の販売だけでなく、寄付された服を再販していました。毎日品揃えが変わるので、その都度お客さんもたくさん来店されていて、特に私世代の若い層が頻繁に訪れていました。

ロンドンのOxfam Shopの様子。フェアトレードの商品や、古着も数多く取り揃えているそう。

ロンドンでのインターンで感じたのが、人々のチャリティ精神がとても強いことに加えて、「社会貢献をしたい」と思ったときにすぐアクションに起こせる選択肢がたくさんあること。Oxfam Shopのように、フェアトレードのものを買いたい、と思ったら気軽に買えるお店もたくさんある。そういう、関心のある層に対して提示できる選択肢の量が、日本と全然違うな、と感じました。

 

「エシカル」が当たり前

 

久米さん:その後ドイツで、ピースシルク(蚕が羽化した後に紡いだ絹糸)やオーガニックシルクをメインに取引している生地メーカーでインターンをしました。幸運なことに、その年に開催されたベルリン・ファッション・ウィークにも出張で関わることができて!実際に、ベルリンファッションウィークやロンドン、ミュンヘンの生地のEXPOで、世界中から集まるバイヤーやデザイナーへの営業を担当してました。

 

ー ベルリン・ファッション・ウィークはエシカルファッションをテーマにしていることで有名ですよね。

久米さん:どのブランドも、オーガニックや再生可能な繊維を使っていて、デザイナー自身がブランド哲学の中に当たり前のように「サステナビリティ」をベースにしていました。デザイン重視でしっかり勝負していて、エシカルの部分は後ろ側にある、という印象でしたね。

インターン先の仕事仲間と。

久米さん:ヨーロッパでインターンをしてみて感じた、日本との大きな違いはエシカル市場の大きさ。ヨーロッパでも、国内だけで見ると小さい市場も、「ヨーロッパ」と大きく捉えるとマーケットを広げやすい。日本だと、「日本」の中で市場を考えがちなのでどうしても小さくなってしまいますよね。エシカルやサステナビリティの繋がりが国を超えてとても強い、というのがヨーロッパでその分野が盛り上がっている一因なんじゃないかな、と思いました。

 

 

「オーガニック」だから100%良いわけじゃない

 

ー そして、最後はタンザニア!なぜタンザニアに行かれたのですか?

久米さん:実際にどのように服の原材料が生産されているのか興味があったので、コットン産業が盛んなタンザニアで、オーガニックコットン農家を訪問しました。

 

今まで「オーガニック」と聞くと無意識に「良いもの」と思っていたのですが、現地のアグリカルチャーオフィスで農家さんに話を聞くと、どうやらそうとも言えなくて。確かにオーガニックは環境に優しいものでもありますが、天候に左右されやすく収穫量が安定しないという側面もあります。そうなると、農家の収入も不安定になり、金銭的に生活が苦しい状況になることもある。

 

ー 「エシカル」をどう捉えるかによって、見え方が変わってきますよね。

久米さん:私が考える「エシカル」は、「労働者の生活の豊かさ」。そういう視点で「オーガニック」を捉えると、現地で働く人たちにとって100%良いもの、と断言できないのでは、と思いました。

 

現地の人たちの中でも「土壌を汚したくない」という声もあり、農薬でコットンを育てながらも部分的にオーガニックコットンを栽培している農家も。農薬、オーガニックのバランスを考えることの難しさを感じました。

タンザニアのコットン畑。

自分だからできる「インフルエンサー」に

 

ー 1年間世界各地での「エシカルファッション」への探求を通して、今後どのような活動をしていきたいですか?

久米さん:日本でのエシカル消費の意識を高めていきたいです。1年間の経験をする中で、安いから買うのではなく、商品の背景を知ってモノを大切にしていく意識がとても大切だと実感しました。もっとエシカルなものを身近に感じてもらえるような場所も作っていきたいし、エシカルブランドをマスに広めていくこともしたいですね。自分自身で色々な場所に行って考えたことを発信したり、海外のブランドの戦略や施策を学んで、将来的には日本の消費者にもより身近にエシカルな商品を手に取れるような場所を提供したい。最前線のエシカルな知識も発信できる、エシカルインフルエンサーになりたいです。まずは、今の自分がやっている活動を発信して行こうと思います!

久米彩花さん

エシカルコーディネーター。立命館アジア太平洋大学国際経営学部3回生。トビタテ!留学JAPAN奨学生9期。wake up japan / oita創設。静岡県出身。

衣食住を切り口に、エシカルな消費を広め、途上国の搾取労働をなくすというビジョンを持って活動中。 高校生の頃から国際協力に取り組み、東南アジアをはじめとする途上国を訪問し、ものづくりの生産者が抱える問題を調査。 2018年より、イギリス、ドイツ、タンザニアの現地企業でインターンシップをし、ベルリンファッションウィークや生地の展示会など、エシカルファッションの最前線の現場で経営、マーケティング戦略を学ぶ。 現在はより多くの人にエシカルな消費を広めようとモデル活動や講演会を行なっている。

Instagram: https://www.instagram.com/koron731/

投稿者プロフィール

MARI KOZAWA
MARI KOZAWA
一般社団法人TSUNAGU理事。ウェブメディア「FLAT. 」ディレクター。2018年エシカルファッションブランドTSUNAGUにジョイン。ビジネスモデル設計や生産者と消費者のコミュニケーションづくりを通して、ファッションの透明性を発信。その他、企業や団体とともにプロジェクトを企画・運営。