【対談インタビュー】宇都宮胡桃(前編)「すべての始まりは『ふるさとの景色を守りたい』という想いから」

様々なクリエイターや活動家の方が、これまでどういう人生を送り、なぜエシカルやサステナブルなことに興味を持ったのかということに焦点をあてながらインタビューをしていくこのコーナー。

今回は宇都宮胡桃さんにインタビューしました。

胡桃さんは、FLAT.のディレクターであり、現在慶應義塾大学に通う2年生。

彼女がエシカルな活動を始めたきっかけには、ふるさとの自然をこよなく愛する大切な想いがありました。

 

子供の頃から「自然も友達」という意識が強くあった

水晶:くるるん(=胡桃さんの愛称)のFLAT.のプロフィールに、“小さい頃は、樹木医になりたかった”って書いてあったのが、衝撃でした。樹木医になりたい、なんて・・・初めて聞いたから。どうしてなりたいって思ったの?

胡桃:樹木医になりたいって考えていたのは、それが森を守れる一番の手段だと思ってたから。子どもの頃、毎日のように、川とか森とかに行ってたから、自然も友達っていう意識がすごくあった。ちょうど自分の友達と同じように。両親や地域の人たちに、とても美しい感性を育ててもらったことが、自分の大事な原点。

水晶:「自然も友達」っていう感覚はどんな風に育ったの?

胡桃:近所に森のあるとても広い公園があったんだけど、その奥に人が誰もいない草原があった。本当はあんまり入っちゃいけないところなんだけど、放課後に、とても神秘的なその草原に入って、ずっと一人で過ごしてた。もちろん、たまには友達と遊ぶ日もあったんだけど、時間があるときはいつも一人でその草原に行って、寝っ転がって、クローバー探したりとかして。

空を見て、雲が流れて行って、だんだん夕方になって、夜になって、風のざわめきを聞いたり、隣で虫が移動してるのを見て・・・。そういう小さな世界が、自分の感覚の中に一緒に生きているように感じてた。そういう生活をしてたから、自然と身についたのかな。

水晶:友達だった自然が「活動の対象」になったきっかけって、何かあったの?

胡桃:きっかけは・・・その頃に出会った、この本かな。

↑鞄から取り出した、胡桃さんが大切にしている本たち。

胡桃:左側の「環境SOSファイル」は、小学2年生のときに手に取った、ベネッセの本。たまたま、お兄ちゃんの付録についていたものだった。わたしが小学校2年生の時だから、1番上のお兄ちゃんが小学校5年生の時かな。そのときについてた付録を、わたしが勝手にぴんときて手に取って見たら、写真がたくさん載ってて、わかりやすかった。内容は、森林伐採とか、動物の被害とか、汚染とか。人間によって自分の友達である自然が大量に死んでいることを知って、すごいショックを受けた。自分にできることはなんだろう?って考えたのが、この世界に入るきっかけかな。

水晶:小学校の時から、そういう感性を強く持ってたのは、素敵なことだね。

胡桃:そういう場所に住んでいたという縁と、両親に本当に感謝してる。桃源郷みたいなところだったから。

自然が失われていくことは、自分の身体を傷つけるのと同じくらい痛い

水晶:自然を守りたいっていう使命感を感じながら過ごした子ども時代・・・どんな子だった?

胡桃:

さっきの本に出会ったこともあって、水を使い過ぎることとか、ごみを不用意に捨てちゃう子とか、食べ物残しちゃう子とかに、すごく敏感になっちゃってた。「友達に注意したらすごい嫌な顔されたの」って親に言ったら「そういうことは言わない方が良い」って言われて、そこからなんとなく、注意したらいけないのかなって思うようになった。でも、すごい気になっちゃってたんだよね、小さい頃は。

今でも地元に帰ると、さっき話した公園の奥の草原には必ず行って「私がみんなのこと守るからね」って伝えながら、一人でうるうるする。

自然も人も、すべてが繋がっていて、一つだと思う。木とか風とか、なびいてる草とか、全てが自分の友達。だから自然を感じて、自然と一体となる瞬間がすごく好き。

水晶:ああ。なんだかすごく分かる気がする・・・。くるるんのふるさとには、他にどんな景色があるの?

胡桃:めっちゃ綺麗な山がある。その山に向かって、真っ直ぐな道が5キロくらい続いてる。道の両脇は田んぼで、通学路は、その田んぼと田んぼの間を通っていく。夏とか秋とか、歩きながら風が吹いたときに、田んぼから山の奥まで風がわーーって吹いていくんだよね。その景色がすごい。草の海だー!って感動しながら、ずっと眺めてた。クルマもあんまり通らないから、座って見てたこともよくあった。

毎日のそういう美しい瞬間や、心の中に残ってる風景がなくなることが、自分にとって痛みのように感じる。自然が生きてるサイクルが失われていくのって、まるで自分の身体を傷つけるのと同じくらい痛いから・・・それを守りたい。

夢を叶えるために、部活を辞めて、思い切って挑戦したアメリカ研修

胡桃:それから高校生になって、進路のことを考えるようになって、改めて自然に関わる仕事がしたいと思った。国際機関に勤めて、もっと大きな規模で環境問題や資源問題を解決していきたいと思った。

でも当時、中高一貫の学校で、吹奏楽部をやってたんだけど、その吹奏楽部がとても強い学校で。九州大会も出て、福岡に強豪高校が多いんだけど、わりと上の方まで行っていて、私はそこでトランペットを吹いてた。だからずっと、自分の夢に関することはできないと思っていた。休みもほとんどなかったし脇目もふらず練習してたから、進路についての活動や勉強をする暇もなくて、諦めてた。

でも、私は音楽で食べていけるっていうほどの能力があるわけでもないし、本当にやりたいことは、自然のこととか、国際機関とか・・・。本当にこのままでいいのかな、って思い始めた時に、突然転機が訪れた。ちょうど高校2年生になる前の春。高校の職員室の前に貼られてたポスターが目に飛び込んできた。福岡県が募集してた「アンビシャスの翼」っていうプロジェクトだった。

(「青少年アンビシャスの翼」:http://www.ambitious.pref.fukuoka.jp/work/wing/index.html

水晶:どんなプロジェクト?

胡桃:アメリカに1ヶ月間研修に行くんだけど。選考して受かった人たちがプロジェクトに参加させてもらえる。高校生の時ってそういうチャンスは、なかなかない。特に地方の子たちは。だから、これしかないって思って、部活の顧問に「私これに行きたいです!」ってお願いした。

でもちょうど、その研修に行ける夏休みは、吹奏楽部の夏のコンクールがあって、それは一番大きなコンクールだったから・・・。それに向かって1年間、みんな血を吐くぐらい頑張るの。だから私が「研修に行きたいんです」って言ったら、顧問の先生は当然、大反対。何を考えてるんだ、と。大学に行ってからでもいいじゃないか、って言われて。でも、そのとき自分は「今しかない」って強く思ってた。自分の人生の選択ができるのは自分しかいないから。ちゃんと「先生の言ってることはわかりました」って言ったけど、そのまま応募しちゃったの、私。

水晶:わあ、すごいね!

胡桃:一次は書類で二次は面接で、英語の試験とかもあって。どんどん進んで行く。やばい、本当に受かるぞ、って・・・で、受かっちゃったのよ!

とても嬉しいけど、どうしよう、って思った。ちょうどそれは5月くらい、コンクールの準備ががんがん始まってるとき。私もめっちゃ練習してたし、その年はとても難しい曲だったから、どうすればいいんだろう、って思いながら、震えながら顧問のところへ行ってみた。そしたら、案の定すごいことになって・・・。
怒られるとかいうレベルじゃなくて、叫ばれたの。何考えてんだ、って。

私、学年で一番っていうくらい、クソ真面目だったの。毎朝一番最初に練習にきて、一番最後まで残ってるような子だったから、まさかこの子が辞めるなんて信じられない、って感じだったんだと思う。

水晶:そんな練習漬けの毎日を送りながらの選考準備は、きっと相当大変だったよね・・・。

胡桃:吐きそうだった。準備が大変というよりも、1年生の時からずっとお世話になった先輩が最後の年だったり、仲間が一生懸命してるし、後輩だっているし・・・。

その中で、自分が裏切っているような気分だったから、毎日吐きそうで、ずっと体調も悪かった。もし受かったら、このステージが先輩と最後かもしれないとか、吹けるのも最後かもしれないと思って、練習や合奏やステージの前に、一人でよく泣いてたなあ。

この続きは、次回の記事に続きます。お楽しみに!

 

~プロフィール~

宇都宮 胡桃(うつのみや くるみ)

福岡県北九州市生まれ。

FLATディレクター・ライター

小学2年生の頃から環境問題の活動を始め、今年でついに13年目。子供の頃から自然が大好きで、小学校の夢は『樹木医』。

大学では里山資本主義の考え方に衝撃を受け、農業、地方経済、再生可能エネルギーを全国で学ぶ。様々な立場の人と出会う中でエシカル消費の重要性を感じ、2017年にFLAT.を発足。「多様な価値観」を批判せず暮らしに馴染む「新しいエシカル」を発信する。

個人の考えとしては、エシカルを理由に買うのではなく、本当に良いものを広めたい。「正しい」を伝えるのではなく、「楽しい」を輝かせたい。これをモットーに、記事では長く続くものづくりや、デザイン重視のエシカル商品を紹介します。

井上水晶 音楽家

1991年福岡生まれ。3才の時クラシックピアノを習い始め、6才より作曲を始める。11才から14才まで父の仕事の都合で中国・北京に暮らす。16才から松任谷正隆氏の勧めで、シンガーソングライターとして創作活動を始める。音楽を通して社会問題に貢献したいと考え、慶應義塾大学のSFCに入学。2012年6月、東映アニメーション映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』の劇中歌として、松任谷由実の名曲「水の影」を松任谷正隆プロデュースによりカバー。大学卒業後は、テレビ・ラジオ出演、CMソングの制作、コーラスによるレコーディングセッション、ソニーミュージックの講座「ソニアカ」講師など、様々な音楽経験を積みながら、都内のライブを中心に精力的に活動。2017年7月、ソニーミュージック内のハイレゾ配信専門レーベル『Onebitious Records』より音楽ユニット『ツダミア』としてアーティスト活動を開始。ツダミアでは「100年残る音楽」をテーマにした音楽活動をしている。また、「FLAT.」では、様々なクリエイターや活動家の人々と共にサステナブルな活動を広めていきたいと思っている。

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