大分・別府市にある「喫茶pirica」。2022年の秋にオープンを迎え、朝から夕方まで、お客さまはそれぞれの過ごし方を楽しまれています。
8時半からはモーニングを楽しめる点も嬉しいポイント。地元の食材がふんだんに使われた「おむすびセット」や香ばしいパンに具材をたっぷり挟んだ「コッペパンサンド」は、定番の人気メニューだといいます。
自家製豆乳ヨーグルトと甘酒を使用した「フルーツミューズリー」は、他のお店では中々食べることの出来ない変わり種。真空ジューサーを使ったグリーンスムージーも栄養満点の嬉しいメニューです。
仕事のお昼休憩にとコーヒーを買いにくる人もいれば、友人とのお喋りの場として利用する人も。黙々と作業をしたり、読書に勤しむ人もみられ、お客さまは思い思いにひと時を寛いでいました。
大きな窓からは眩しい太陽が店内に差し込みます。テイクアウトをして、海や公園へ向かう人やドライブの途中に立ち寄る人も。
そんな自由で柔らかな空気をまとう「喫茶pirica」のオーナーをされているのは、河野さん。今回は、お店のコンセプトや想いについてお話を伺いました。
取材当日は、穏やかな陽が店内に差し込んでいました。
お店のドアを開け中へ進み、パソコンを取り出して取材の準備をはじめていると、淹れたての珈琲と小豆のパウンドケーキを出して下さりました。心地よい空間のなか、ゆるりと取材がはじまりました。
お店をオープンしたのは、2022年11月。喫茶piricaを開店する以前は、別の場所で「二ドム」という店名でお店をされていたといいます。
2015年に、敷地の関係で前店舗をクローズし、歳月を経て、さまざまなご縁のもと「喫茶pirica」のオープンに至りました。
河野さん:
「自分が生活をしている中で、環境問題や政治、社会のしくみなどに対して『もっとこうなったらいいな…』と思うことがよくあります。そんな中で、今自分にできることを考えた時に、やんわりと、でも確実に影響を与えられるような場所づくりをしたいという想いがあります。
もちろん、喫茶やカフェとしての文化も大切に、お茶をしながら友人と対話をしたり、ぼーっと過ごしてもらえることも嬉しいです。他にも、関心のある問題についてディスカッションをしたり、ひとりでノートに書き込みをしたり、作業をしたりーー
オープンに、自由気ままに過ごしてもらえるお店にしていきたいです」
お話を伺うなかで、印象深かったキーワードは「人間らしさを感じる」ということ。
マニュアルがあったり、絶対こうしなければいけない…!というルールが世の中には沢山ありますよね。もちろん、ルールがあるからこそ成り立っているものがほとんどであるため、意識を外側に向けて日々を過ごしている方も多いのではないかと思います。
そんな中でも、力を抜ける時は、思う存分力を抜くことも大切。
でも、意外と「力を抜く」って難しいもの。知らないうちに、頭のどこかで「こうしないといけない」とか「一般的にこうするのが正解だ」などと思い、ついつい肩に力が入ってしまうことも多々あると思うのです。
しかし、河野さんとの会話の中で出てきた「もう少し、力を抜いてもいいんじゃないかな…」という言葉を聴いて、はっとしました。
河野さん:
「ふとした会話(お誕生日ならケーキをあげるとか、忘れものをしたら今度でいいですよとか)もっと人間らしさがあっていい気がします。大げさに聴こえるかもしれないけど(笑) 『人間でいてよかった』と思える瞬間を、自分自身も含め、お客さまにも感じて頂けたら嬉しいですね」
ルールや決まり、周囲の反応を気にしすぎるあまり、どこか型にはまってしまうような感覚。そんな時に、つい忘れてしまいがちな「人間らしさ」。
自分に対しても、相手に対しても、自然と出てくる言葉や感情に素直になることこそ、より人間らしく、伸び伸びと生きていく秘訣なのかもしれません。
私も先日「本当に自分がやりたいことは何だろう…」と立ち止まり、自分自身が何を求めているのか、一から見つめ直すタイミングがありました。将来のことや目に見えない大きなモノに左右されず、小さなことに幸せを感じられる時間が、私にとっては、とても大切で尊い時間なのだと気付くことが出来ました。
人間らしく、そして、喜怒哀楽を大切にしながら生きることに意識を向けていきたいなと河野さんのお話を聞いて思いました。
もしかして「二ドム」もアイヌ語ですか…?発行されている雑誌「MINTAR Magazine」も…!?
河野さん:
「そうそう(笑)。『二ドム』はアイヌ語で『森』という意味。動物、植物、微生物……
多様性の象徴として、森。色んな要素が入り混じって成り立っている森。そんな風に色んな人が一緒に暮らしていける場、お店にしたいという想いを込めました。
食に関しては『誰もが安心して、おいしく食べられるものを提供したい』という想いを大切にしています。メニューの中には、ベジタリアンやヴィーガンの方が食べられるものも、用意しています。それは、動物性のものを中心食べている人が世の中の全体として多すぎる気がして……
もちろん、いのちを頂くことが悪いというわけではないけれど、畜産物の背景に注目したときに、あまりにも不自然な過程が多いなとは思います。
だからといって『ヴィーガン』という食の選択を大々的にアピールしたいということでもなく、そこの敷居は0にしたいなあ。少しでも敷居があると、自分が実現したいお店ではなくなってしまう気がするんです」
お話をお伺いする中で見えてきた、河野さんの考える「食の選択」。最近では、食をはじめ、働き方や考え方といった「生き方」そのものに対して、あらゆる選択肢が受け入れられるようになってきています。
何がいい、何が悪いーー
そんな「二択」だけにとどまることなく、様々な考えに触れながらも、一人ひとりが輝き、助け合えるようなお店。店内で河野さんとお話したり、お店を訪れるお客さんを見ている中で、温かく穏やかな空間を味わうことができました。
河野さん:
「大きなお店でなくても、街に一つあるだけで、十分だと思うんです。たった一滴の水でも、波紋は大きく広がっていく……
そんなイメージかな。
『喫茶pirica』がこの街にあることで、小さいお店ではあるけれど、長い目で見たとき、何か大きなエネルギーを生み出してくれると信じています」
小さな街の、小さな喫茶。一人ひとりが気張らずに、ほっと落ち着けるような空間と、安心して美味しいものを頂くことができる「喫茶pirica」の心地良さは、街に暮らす人々の大きな支えとなっているのかもしれません。
後編へ。
喫茶pirica 一粒の種から、お皿にたどり着くまで【後編】